このサイトは主に長山一夫の著書、仕入覚書を掲載するものです。
トップページへ

行徳の漁師、福田武司の海苔

 平成21年1月31日、滝口喜一廃業の後、一部、天日干し海苔の生産もしている行徳漁協の福田さんが、今期の数種類の海苔を持参し、僕に味見をしてくれとのことであった。
 行徳漁協の福田武司の3種類のスサビ海苔と、現在、僕が使用している木更津漁協の井上通のアサクサ海苔との比較を以下の表にまとめた。


福田武司の解説
「1」は、大森の海苔のおもしろ館での、手漉き・天日干し~支柱柵による1番海苔で、成長が順調で良かった。
「2」は、全自動の機械漉き・天日干し~12月8日産。ベタ柵による浮き流しによるもので、潮の干満による空気のさらしがないため、海苔が柔らかく、成長が良くなる。収穫の1週間前には支柱柵に張る。乾燥は石油ファンヒーターによる。
「3」は、「2」と同じ海苔。

疑問
1)福田さんの全ての海苔の微かな塩味を感じさせる旨みは、自然のものか、意図的なものか
2)「1」の海苔が大変美味しかったのは、偶然か?
3)福田さんの海苔は、酸処理、酵素処理をしているのか? 
4)滝口喜一の天日干し海苔同様に色艶が悪いのだが、なぜ悪いのか? その理由は?
5)海苔に香りが少ないのはなぜか?

 福田武司さんの父親は、海中で成育した海苔の摘み採りの機械である“潜水艦”方式を開発した漁師だが、この機械の特許を取らず全ての海苔漁師に公開し、海苔の摘み取り作業時間の画期的な短縮に貢献した。昔は全て手摘みだったが、その後回転刃を持つ電気掃除機のような機械が作られ、その後さらにこの潜水艦が発明されたのだった。武司さんは兄さんと共に脱サラし、漁師となった。昨年は天日干しの海苔にも挑戦し話題となった。

福田武司の回答

1)三番瀬の奥にある行徳の漁場は、栄養分が豊富だが塩分濃度は低い。微かな塩味は意図的なものではなく、自然に出たものである。海苔の洗浄は真水で行うのだが、同じ水を何回も利用する「返し」のやり方をとり、海苔の旨みが逃げない工夫をしている。微かな塩味を感じさせる旨みは、塩分補充によるものではなく、生海苔に本来含まれている塩味と旨みで、この旨みの濃縮した洗浄水によるものと思われる。
2)「1」の海苔は、手漉きの後、押さえつけずにそのまま乾燥しているので、全自動機械による両面からの圧縮による水分の絞りがないため、海苔がふっくらと乾燥している。
3)殺菌のために、酸処理はしている。
4)酵素など色の発色と艶出しのための薬品類は一切使用していない。行徳の漁師たちの海苔は、このような色艶の欠けたものが通年のものであり、もう一つ高値が付かないのが悩みとなっている。一昨年は、例外的にもう少し色艶良く香りもあった。他の6人の造る海苔も皆このような状態のもので、原因は不明だ。
5)海苔の裁断は、新海苔、2番、3番と、次第に変化していく海苔の硬柔の状態によって、細分の密度を変化させている。香りの少なさの原因はわからない。

◎かつて、滝口喜一は、「全自動機械によってつくられる海苔の最大の欠陥は、収穫された生海苔を真水で徹底的に洗ってしまうことと、天日での乾燥をしないことにある。徹底的に洗ってしまうことによって、海苔の旨みが大量に流れ出してしまう。天日で干さないことによってふんわりとした膨らみと、天日による旨みの追加ができない」と言っていた。

平成21年2月15日

↑『増補』のその後の目次へ