このサイトは主に長山一夫の著書、仕入覚書を掲載するものです。
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日本漁業の驚愕的な凋落の現状(その1)

原因と再生のために

 2005年の漁業白書では、日本の総漁獲量は20年間で約50%、40年間で約10%に激減、総漁業就業者も56年間で20%に激減したとされている。漁師の平均年齢はすでに60歳を超える。平均年収は300万円以下、所得税の課税対象以下の年収で、絶望的な後継者難の問題を抱えている。
 10年後の日本の漁業はどうなってしまうのだろうか?

日本漁業凋落の背景
日本経済の低迷…
 バブルが弾けて以来、凋落し続ける築地市場の低迷は著しい。この20年間で1,100軒以上あった仲買人が、2010年4月1日現在では738軒にまで減少した。約40%に上る市場外流通の増加とは言え、仲買人の売り上げは半減し、4割以上が経常赤字や債務超過に陥り、月平均2業者の割合で廃業が続いていると言われる。
 日本経済と水産物業界の低迷は漁業者だけではなく、流通業者と飲食店をも含む漁業関連産業全体に及んでいる。頂点を極めた日本経済は、人件費と物価の高騰と円高によって輸出競争力を急速に低下させていった。景気の悪化と少子高齢化は内需をさらに低迷させ、長期にわたる慢性的なデフレ現象の中で、日本経済は先行きの見えない、さらなる景気の悪化をもたらしている。

漁獲量の激減と魚価の下落…
 近年の全国的な著しい漁獲量の激減は、安価な魚を輸入することによって埋め合わされてきた。そのために日本国内での需給のアンバランスの下での正常な価格形成が機能せず、輸入品の安い魚が価格決定の主導権を取っていった。さらに日本人の食生活の変化による魚食需要の減少は、国産魚の価格の下落と安値の定着をもたらし、漁師の収入を悪化させ続けている。

品質の劣化…
 乱獲の結果か?、海水温の上昇によるものか? 10年ほど前からは、高級魚の漁獲量が極端に減少し、品質の劣化現象が多々見受けられるようになってきている。

水産庁の漁業政策の失敗…
 漁獲量の激減と乱獲に対する漁業政策、漁獲規制等の立ち遅れは、ワシントン条約でのホンマグロ問題の中で大きく表面化された。(後述)


漁業現場の実情
1)神奈川県横浜漁協柴支所(小柴支所)…環境破壊による激減
 10数年前頃より激減していたシャコ漁の大不振は、2005年に遂にその頂点に達し、シャコの小型底曳き網漁を前面禁漁とし、2010年まで禁漁は続行されることになった。そして今年の5月に約5年ぶりの解禁となったのだが、結果は思わしくなく、1ヶ月ほどで中止された。状況次第での9月に入ってからの再開に期待をかけたのだが、それも前面中止となった。スミイカもマコガレイもクルマエビも激減し、アナゴの筒漁及び底曳き網漁の漁獲も最近は目立って減少している。さらに追い討ちをかけるようにして上昇する原油価格の暴騰による採算割れは、廃業漁師を発生させている。

2)千葉県木更津漁協…赤潮、青潮と寄生虫の発生による激減
 2007年からのカイヤドリウミグモのアサリへの寄生により、アサリ漁はほぼ壊滅の状態で、水温の上昇と海況の悪化によるノリ漁の不振も重なり、漁師を辞めるものが出ている。中里支所の蓄養ハマグリは一昨年大成功し、大きな期待の内に稚貝の放流量を6倍に増やしたのだが、昨年の秋に発生した青潮により致命的な大打撃を与えられ、アサリの捕食者で天敵のサキグロタマツメタという巻貝が、壊滅状態のアサリの代わりに、このハマグリにも害を及ぼしたと言われ、蓄養ハマグリの出荷は停止状態となっている。

3)福島県相馬原釜漁協…乱獲と海水温の上昇による激減と品質の劣化
 夏場の2kgから3kgのお椀を伏せたように盛り上がった身肉の、見事に脂の乗ったマコガレイと、冬場の2kgから3kgの、身肉が厚く太り、しっとりと琥珀色に変化している絶品のヒラメはもう全く見られなくなった。両方共に量目は小さくなり、身質も微妙に劣化し、漁獲量も激減している。

4)大分県佐賀関漁協…乱獲と海水温の上昇による激減と品質劣化
 関サバ、対岸の愛媛県三崎漁協の岬サバにも、ブランド化の先陣を切り、一世を風靡した栄光はもう全く見られない。乱獲による漁獲量の激減はサイズの矮小化、脂の乗ったかつての最高品質の劣化も顕著で、現今の日本各地で獲れる高級魚の典型的な品質劣化の見本を見せ付けている。

5)鳥取県境港漁協…乱獲と漁業政策の失敗による激減
 長さ2,500m、深さ300mにのぼる大型巻き網船でのホンマグロ漁は、夏場の産卵前後の大小含めての大乱獲で、3年前にはたったの2ヵ月半で42,000尾もの漁獲を揚げ、漁業政策の不備も含めて鮪業界の大批判を浴びたが、昨年はその3分の2、今年はその半分へと滅茶苦茶な乱獲の大きなしっぺ返しとなっている。

では今、何をしなければならないのか?
 以上のような問題が各地の漁協で次ぎから次へと多発してきているのだが、現状に対する最新の統計数字と、その原因を考える最新の系統的情報不足と自らの探究心の怠慢の中で、慢性的な欲求不満の苛々状態が続いて来ている。
では、今、何が知りたくて、何をどのようにして行きたいのか、今感じている課題をとりあえず列挙してみることにする。

課題
 漁獲量、漁獲高の激減と漁師の老齢化による驚愕的な日本漁業衰退の明確な統計的実態は?
2007年より約5年経過した小柴(柴支所)の、絶滅寸前となっているシャコの全面的操業停止の成果は?
 江戸前のアナゴとクルマエビの激減の正確な現状は?
 ヒラメ、マコガレイ等の、高級魚の品質劣化の原因は?
 マイワシ、ホンマグロ等の慢性的不漁の原因は?
 スズキ、ボラ、コハダ、アナゴ、シャコ、ヒラスズキ、ヒラメにまで及ぶ重油による油汚染の現状とその原因は? シロギス・ヒラメ・マダイに見られるヨウド臭の原因は?
 毎年、定期的に発生する赤潮・青潮の原因と抜本的な対策はどうなっているのか?
 赤潮、青潮の最大原因の一つとされる生活排水の合理的な処理のための、下水道処理の合流式と分流式の問題はその後どのような展開を見せているのか?
 お台場に打ち上げられたオイルボールのその後の状況は?
 東京湾内湾の 環境保全と再生運動の現状は?
 水産庁による漁業政策に対する批判が多いが、その実態は?
 最近とくに言われ始めている「レジームシフト」とは?

 平成21年8月の夏休みから始まった資料探しの中で、幸運にもこれらの問題を、統計資料と共に、明解に説明している本に出会うことになった。

◎よみがえれ東京湾 江戸前の魚が食べたい!(一柳洋 著)
◎さかなはいつまで食べられる 衰退する日本の水産業の驚愕すべき現状(小松正之 著)
◎イワシはどこへ消えたのか 魚の危機とレジームシフト(本多良一 著)
◎魚の経済学 市場メカニズムの活用で資源を守る(山下東子 著)
◎東京湾再生計画(小松正之 尾上一明 望月賢二 共著)
   

 以下、上記の本の中の資料の引用と共にその内容を要約してゆくことにする。
 激減している漁獲量と深刻な後継者不足、老齢化する漁師という日本漁業の現状は、10年後には最悪の状況に陥いる可能性があるとまで言われる。東京湾内湾漁業と日本全国の漁業の現状をあぶりだし、その再生の課題を考えてみたい。 

よみがえれ東京湾 一柳洋 著(2008年7月14日初版第一刷)
江戸前の魚が食べたい 

激減する漁獲量と漁師
東京湾内湾は、1986年から2005年の20年間で、総漁獲量が約50%に激減。
       1960年から2005年の45年間では、総漁獲量が約10%弱に激減。

全東京湾では、1960年から1988年の28年間で、漁師の経営体は約25%に激減。

横須賀東部漁協では1989年から2007年の18年間で、経営体は約25%弱に減少

2007年、漁協の正会員のうち60歳以上が5割を占め、準組合員では6割を超える。10年経てば漁民は半減することになり、経営は安定するかもしれないが、供給量は比例して大幅に落ちるはずだ。

激減する鮮魚商…横須賀市の鮮魚商組合員数の変遷…1955年代には260軒ほどあり、40年後の1997年には127軒に半減、2007年には80軒となる。1955年から2007年の50年間30%に激減した。

では、何故、これほど驚愕的な漁獲量の激減が生じたのだろうか?

原因その1…漁業政策の失敗による乱獲の発生
原因その2…環境破壊
原因その3…工場排水及び生活排水による汚染。赤潮・青潮の発生による魚介類生態系の破壊
原因その4…温暖化による海水温の上昇に伴う生態系の異変
原因その5…磯焼けの発生→磯の白化現象(磯焼けとは、浅海の岩礁・転石域において、海藻の集落(藻場)の季節的な消長や多少の経年変化の範囲を超えて著しく衰退または消失して貧植生状態となる現象)
原因その6…下水道の不備と汚水浄化に使用した「塩素」の生態系への弊害
原因その7…田畑・溜池等の喪失と、大雨時の水門・堰の一斉開放による海の塩分濃度の急激な低下による魚介類の斃死
原因その8…レジームシフトによる魚種の交代と、それを無視した乱獲
(後述)

(注)レジームシフト~「大気・海洋・海洋生態系からなる地球の動態の基本構造が数十年間で転換すること。

では、上記のその1~その8までの原因をさらに深く掘り下げてゆく。

原因その1・・・漁業政策の失敗による乱獲の発生
A)漁業政策の失敗による致命的な乱獲の発生
(1)ABC(生物学的漁獲可能量)を超えたTAC(漁獲可能量)の設定による乱獲。
 マイワシは、1999年以降の統計では毎年ABCの数値を遥かに上回る数値が設定されてきた。1999年には1.7倍、以後ABC の数値の激減の中でも、MSY(最大持続生産量)理論によって設定されるTAC の数量は変わらず、2000年は2.7倍、2002年3.2倍、2002年には12倍という不当な設定がなされて乱獲を促進し、50万tの漁獲量が瞬く間に数万tの漁獲量へと激減した。
 サバも最低1.3倍から3.1倍に設定され、しかもこの数値はマサバとゴマサバを一緒にしての数値で、巻き網漁のために、当然大小込みのマサバの乱獲となっている。サンマは豊富なABCをはるかに下回る0.3倍から0.8倍のTACが設定されている。これはサンマ巻き網業者の保護という大義名分のものになされたのだが(実はサンマの棒受け網業界の発言力が強く、大量漁獲による価格低下を防ぎ、価格を安定させるため)、水産業全体を見ても多くの不都合な事態を生じさせた。獲れなくなった魚は保護して獲らず、豊富に獲れる魚を豊富に獲り、合理的に有効利用することが実質的には求められている。

(注)ABC(生物学的漁獲可能量)…水産総合研究センターの資料に基づいて行政庁が設定する枠で、科学的に見てこの水準以上獲ったら乱獲になるという数量。
(注)MSY(最大持続生産量)…獲れば減る、獲らなければ増える。しかし餌や生活環境に限界があるので、無限には増えない持続的生産量。
(注)TAC(漁獲可能量)…ABCをもとにして、MSY理論によって前年の漁獲量の集計・推定のもとに設定される。国連海洋法条約に基づき、200カイリ排他的経済水域の設定の際に、魚種ごとのTACの算定が義務付けられた。ABCの数値を超えたTACの設定に対する批判に対して、 水産庁の管理課では、社会経済学的要因を考慮して設定されるという言い方をする。これは水産業者に対する経済的保護政策なのだが、漁業者の一時的利益保護であって、乱獲による漁業資源の激減の原因となっている。(築地銀鱗会小松正之氏の講演より)

(2)漁業政策、漁獲規制運用の怠慢による乱獲の発生。
1)指定魚種に対する指定漁法が規制されているのだが、ABCの変化に対応するための弾力的転換が禁止されているため、豊漁魚種への有効な転換が出来ず、設備投資への合理的な転換が不可となってしまっている。
2)大型底引き網漁と大型巻き網漁に対する規制が緩いため、本来は禁漁期にすべき産卵期を無視した、大小様々なサイズを含む徹底的な乱獲を見過ごしてしまっている。
例…6月から8月に掛けての境港漁協での大型まき網漁(幅2,500m、深さ300mの巻き網、1km内の全方位を探知するソナー設置。隻数4隻から5隻。)によるホンマグロ漁は、産卵前後の大小混獲の一網打尽によるもので、資源減少の大きな一因となっていると鮪業界全体から非難されている。
3)…内湾のマコガレイ・シャコ・アナゴの激減は底引き網漁、筒漁の乱獲によるものとも言われる。
4)…各地でのシラス網漁(巻き網漁)による多種多様な稚魚の乱獲による成魚の激減。

(3)TAE(漁獲努力可能量)規制の緩さよる乱獲の発生
1)TAC規制の下でのオリンピック方式の漁獲は、漁船の搭載設備機器性能の驚異的向上と漁法の高度な改良が求められ、不当な投下資本の高騰の中での乱獲を発生させている。

(注)…TAE(漁獲努力可能量)…現在の漁業政策の大黒柱とされ、休業・減船・漁具改良の経費を国が漁業者と都道府県とで分担することによって漁獲努力可能量を法律で規制し、MSY理論によるTAC(漁獲可能量)を指定する。
(魚はいつまで食べられる 小松正之著 一部参照)

B)密漁
◎例…アワビの各地での密漁は公然化しているが、今年、やっと産地と築地市場を連結させての監視取締りが厳しくなってきた。
◎例…北方領土でのウニとカニの大半は密漁による乱獲となっていると言われる。

原因その2…環境破壊
沿岸の浅瀬や干潟の埋め立て
 戦後の日本経済の復興に伴う東京湾岸の埋め立てによる再開発は、昭和30年中頃から急ピッチに勢いを増していった。戦後から現在までで、全国の藻場、干潟の約半分を失っていったのだが、東京湾では江戸時代から続く埋め立てにより、9割の藻場干潟を失ったと言われる。しかし、その埋め立ての大半は、戦後の高度経済成長時代に行われ、京浜・京葉工業地帯が形成されていった。干潟、浅瀬の持つ海の浄化作業、藻場による魚介類の再生機能が見事に破壊されていった。漁師達は「大規模な埋め立てと開発の結果による潮流の遅速化、潮汐の変化による生態系への影響は大きく、深刻なものとなっている」と言う。


原因その3…工場排水と生活排水、その他による汚染と環境規制
 1960年には東京湾は歴代最高の18万7,000tの漁獲量を記録したが、その後の急激な湾岸開発と人口集中による内湾汚濁の進行によって、わずか数年後から10万tを割り始め、72年には4万t台、86年には4万tを切り、2001年以降は2万tを下回り、10%ほどに激減した。1972年には、大東京湾建設計画のために、東京都の漁業者たちは漁業権を放棄していった。

◎環境規制の流れ…発展してゆく重化学工業、自動車工業、製紙工場等からの排水の汚濁防止規制のために、水質汚濁防止法、人口増加に伴う生活排水による海と漁場の汚染防止規制のための下水道法の二法が1970年に成立した。
 1979年から富栄養化の元になるチッソ・リンの水質総量規制である、COD(化学的酸素要求量)の総量規制が開始された。湾全体でのCOD、チッソ、リンの発生負荷量は、その後20年間にそれぞれ45%、24%、47%削減されたと見積もられているが、これらの規制は汚染の発生に対する規制としては必ずしも十分なものとなっていない。

汚染には陸上からのものと海上からのものとがある。

A) 陸上からの継続的な汚染

(1)下水道処理の不徹底による汚染
 合流式から分流式への改善の遅れによる、生活排水の未処理汚水が、富栄養化による東京湾の赤潮・青潮発生の最大原因となり、魚介類の大量死の多発をもたらしている。
 2004年、国交省は合流式下水道による水濁法違反状態を解消するために、合流式下水道改善を打ち出し、同時に生活排水による富栄養化の激しい内湾に対して、富栄養化の元になるチッソ・リンの総量規制も立法化した。
(注)合流式下水道・・・汚水と雨水を同一の管で運び海に流す合流式は、汚水による海の汚染と富栄養化の最大の原因となった。1本の管での施設で行われるために安価な予算で処理できるため、当初の下水道は圧倒的に合流式で処理された。
(注)分流式下水道・・・生活排水の汚水と雨水に分別され、雨水はそのまま別の管で海に運ばれ、未処理汚水は浄化処理場で浄化し、チッソ・リン等の富栄養化の原因となるものを完全に分離処理してから海に排出される。
◎合流式から分流式への過渡期の欠陥・・・大雨による大量の雨水の発生時に、田んぼ、溜池等の大量の雨水の留水場の喪失にもよるのだが、分流式地域からの雨水と未処理の汚水が、海に近い末端の合流式地域に流れ込むことによって、浄化処理場の処理能力を超えて溢れてしまい、未処理汚水が大量に海に排出してしまう。
 2004年の国交省による改善策は、分流式への改善を促すものだが、地方自治体では多額の予算を要するために、神奈川県のように、未だに改善できないでいるところが多い。またチッソ・リンの総量規制はさらに厳しいもので、下水処理場を持つ全国の自治体は、微生物等を利用する高度処理と呼ばれる、さらに高額の予算を要する方式に取り組みざるを得なくなった。下水道の不備による生活排水の汚水が未処理のまま海に排出されることが、海の汚染と富栄養化の最大原因と指摘されているのだが、自治体の公共投資はこのような環境保全・再生の方向に早急に向けられることを求められている。
(2)田畑、ゴルフ場等からの大量の化学肥料と防虫のための化学薬品の海への流入による汚染
(3)重油、石油扱い業界、漁業者の処理不徹底による油の流入・・・魚介類の油汚染の最大の原因となっている。
(4)上流での発電所、堰の設置とその操作による生態系への負荷
海への自然な河川の水流量、有機物、砂泥の流入量の変化による河口のヘドロ化、山林の伐採の開発工事によるフルボ酸鉄の喪失等の生態系への負荷
(5)沿岸の開発による藻場・干潟の喪失と徹底的な護岸工事による生態系への負荷
◎オイルボールの発生と現状
オイルボールとは全長20センチにおよぶ粘土のような白い油の塊で、生活排水の廃油によって生じるとされ、お台場の海岸に多々漂着した。東京都は約90億円かけて対策に追われている。国土交通省都市・地域整備局がオイルボールの元凶で、大雨で汚水が流れ出す「合流式下水道」の実態解明を目的とし、検討会を重ねて処理施設の改善を目指す。港湾局は今年度(平成13年度)から実用化している湾内に漂うゴミと油を同時に回収できる清掃船をフル活動、さらに水質のモニター調査も行う。(産経新聞平成13年6月26日参考)

B)海上からの汚染

(1)漁業者、遊漁船による撒き餌による公害
 大量のオキアミは内湾の富栄養化と海底のヘドロ化、貧酸素化への汚染原因となっている。
(2)オイルタンカー事故による油の流出等、船舶による汚染
(3)原因不明の油汚染による魚介類の被害。生態系への影響の懸念
(4)レジームシフトによる生態系の変動
(5)台風到来の減少による海底状況の悪化
 近年の関東近辺への台風到来の減少のために、海底を定期的に攪拌することによって生じる海底有機物の沈殿堆積であるヘドロの攪拌浄化作用が停滞し、海底生物の生態環境に明確な異変が生じてきている。海底にヘドロが大量に堆積してしまっている。
(6)魚体のヨウド臭化
 原因不明。餌の不足によるヨウド臭のある海藻等への食性の変化か?かつて、夏場の海水温が異常に高温の時、常磐・三陸・津軽海峡のヒラメがヨウド臭を帯びたことがあったが、原因不明であった。今年5月の式根島のマダイも臭っていた。特に竹岡のシロギスのように定期的に臭うものもある。植食魚は海藻臭いと言われるが、餌不足で一時的に海藻を食べているのかもしれない。海苔の養殖場近辺で獲れるコハダは海苔の香りが微かに付着している。
◎赤潮と青潮の発生と原因
 東京湾では、都市排水がもたらすチッソ・リンによる富栄養化によって、プランクトンの大増殖である赤潮が日常的に起きている。大量に発生したプランクトンの寿命は短く、死滅すると壊れながらどんどん積み重なるようにして沈殿してゆく。海底ではバクテリアによる分解のために酸素が大量に消費され、貧酸素・無酸素水塊ができる。
 さらに高度経済成長期には、埋め立て用土砂を確保するために、埋め立て地先の浅瀬を浚渫し深い穴を掘ってまかなった。また、航路を確保するために海底を広く深く削掘した。その深場が、いまだに海水の滞留を生じさせ、無酸素状態の青潮発生の原因となっている。嫌気バクテリアの活発な働きによって海底から大量の硫化水素が湧き出して青潮となり、貝類・はぜ・カレイなどが大量に死んでゆく。
 東京湾の赤潮(大発生した植物性プランクトン)そのものは、2003年に発生したものを除き、色の割には良性で、魚介類を殺すことはなく、むしろ大量の酸素を作り出している。その大量さと短命ゆえに、死滅後の大量の死骸の沈殿物による青潮の発生が問題となっている。

原因その4…水温の上昇に伴う生態系の異変
 水温の上昇による生息領域の移動、拡張に見られる生態系の異変と、産卵期の変化による旨さの旬の移行。適正水温の常態的変化による、魚介類の生態適応能力の喪失による死滅減少は深刻な問題となっている。

原因その5…磯焼け
 ウニ、アワビ、植食魚による被害。水温の上昇、栄養塩不足、浮泥物等による無節サンゴモ群の発生による海底の白化現象。海中林の消滅による魚介類の生態系の喪失。(北海道増毛漁協行によるレポートにて詳述)

原因その6…塩素使用による下水道処理の弊害
 大量の塩素が、有機物やプランクトンを消滅させ、魚介類の変質を招いていると言われる。
例…海苔の色落ち、成長に弊害を及ぼす。

原因その7…田畑・溜池等の喪失による大雨時の水門・堰の一斉開放の弊害
 川水の大量放水による急激な海水塩分低下による貝類の斃死。
例…三番瀬では、大雨時の水門大放水によって、海水の急激な淡水化が生じ、しばしばアサリが大量死している。

原因その8…レジームシフト(後述詳細)



さかなはいつまで食べられる
(2007年8月31日第1版第1刷発行)
衰退する日本の漁業の驚愕すべき現状(小松正之 著)

日本漁業の現況(資料:農林水産省「漁業・養殖業生産統計年報」など

 1972年から1988年までの17年間、世界一の漁業大国であったのが、瞬く間に凋落し、17年後の2005年には2分の1の漁獲量に激減。漁業者も5分の1に激減している。輸入が国内需給の半分を満たす輸入大国となったが、最近では中国やヨーロッパ諸国に買い負け、その輸入すらおぼつかない状態だ。国内生産も衰退し、輸入に頼ることも出来ないとすれば、日本人の魚食をどう守っていくことが出来るのか。
(「買い負けではなく、売り負けです。日本はデフレで末端価格が上がらないから、高い価格で輸入しても売れません。かつてと違い、日本に価格の主導権はなくなりました。東京・築地の水産卸「中央魚類」の冷凍部ゼネラルマネージャー取締役部長古賀国昭さん)

世界の水産物貿易量の推移
 世界的に水産物の生産貿易(輸出)量は増大の一途である。特に中国、発展途上国。日本の漁業・養殖生産量は9,000万t程度で伸び悩み、さらに減少傾向にあり、ペルー、インドネシア、インド、チリなどにも抜かれ、世界で6番目となってしまっている。ノルウエー、アメリカ、ニュージーランド、アイスランドはすでに資源の乱獲、悪化を何年も前に経験し、それを克服し、自国の水産業を強い産業にまで変え輸出国となっている。世界の輸出量は1965年には610万t、2004年には2880万tと、40年間に約5倍となっている。

日本漁業の凋落
 1988年頃から日本の漁業が急激に減少したように言われているが、1988年に450万トンの漁獲があったマイワシがバブルだったと考えると、本当は1974年ぐらいから日本漁業の凋落が始まっていた。この時から、日本は旧態の漁業の抜本的改革対策を着手するべきだったのに、マイワシ、マサバの大量漁獲に幻惑され、その後も効果的かつ迅速な手を打たなかったため、対応の遅れとなった。
実例1…下関漁協 1955年25万tから2004年は1.6tと大幅に減少。統計上では2011年にはゼロとなる。

◎沖合い底引き網漁と大型巻き網漁による弊害が出ている

1)乱獲…大型沖合い底引き網漁船と大型巻き網漁船による乱獲
2)漁場の破壊…漁場である海底がマッ平らにされ、漁礁すらない状態となってしまった。
3)最適な漁法への転換の立ち遅れ…大型からコンパクトな底引き網漁船への転換が遅れ、収入とコストとのバランスが取れていない。
4)漁業規制の無策…禁漁も含めた漁獲規制がなされていない。
この事態の中でも、漁業者達は「日本だけやっても中国、韓国などが休まなければ意味がない」と言う言い方をして他者に責任を転嫁している。

◎激減した漁業者と老齢化

全国の漁村…戦後109万人もいた漁業就業者が今は22万人(2005年)で5分の1となってしまった。さらに60才以上が2分の1以上となっている。
離島の漁村…このまま外部からの新規参入者もなしで推移すれば、水産都市や漁村社会は急激に衰退する。2030年には日本の人口は2000年に比較して全国平均で約7%減、漁村では約25%減、離島では約40%減となる。このまま資源の悪化が進行すると、離島の漁村は集落が消失しかねず壊滅状態になる。それにつけても大事なのは、まき網漁業などの大型漁船の獲り過ぎなどを迅速に規制する、総合的な資源回復のための政策です。そして、離島の周りの沿岸や海洋環境の修復にも努めることです。

◎輸入水産物の増加
 価値ある国産水産物の生産と流通、そして加工をすることが大きなポイントとなる。国際競争力のある水産業に変えていくことが大切です。小規模で旧態そのままの日本の漁業の近代化・効率化をし、食の安全・安心の面で、優れた特性を有する「さかな」を日本市場に供給することが大切です。

◎新しい漁船はもう造られない。漁業の許可も激減。
 日本では資源が悪化して漁船数が減少しても、1隻当たりの漁船が大型化している場合も多い。このような場合には、過剰資本投資となっているので、資源の回復を目指して、さらに漁船数を減らす必要があります。

日本漁業再生のために
(1)「これらの減少傾向に歯止めをかけ、日本漁業の生産性向上と日本国による自給の力の向上のために、もっと、日本の漁業者による日本の魚の供給が、国内の消費者に対してなされなければなりません。世界が日本にいつまでも魚を売ってはくれないことがはっきりしたのです。そのためには、消費者も国産の魚に目を向け、もっともっと国産の魚を食べ、日本の漁業者の手取り(収入)がふえて、水産業を支える意欲と体質を備えるように支援することです。そのための、日本の漁業を根本的に改革する対策が早急に実施されなければなりません」(さかなはいつまで食べられる 小松正之著)
(2)「横須賀の漁民は今後10年でほぼ半減し、その後は加速度的に減少するでしょう。これは横須賀だけの問題ではなく、程度の差はあれ東京湾全体、そして日本全国レベルでも同じことが言えるのです。内湾漁業を取り戻すことを環境問題とセットして政策課題とすべきと考えます。21世紀の水産・漁業は農林水産省が考えるだけの問題ではなく、環境回復、生態系再生の問題として政府全体が真剣に考える課題だと思います。環境省は東京湾の環境対策の実際(下水道改善や浅海域回復)を国交省に取られているため、地球温暖化ばかりを取り上げ、たいした効果もないクールビズだウオームビズだのとはしゃいでいますが、下水道改善を実現し浅海域の回復を図ることが環境と漁業のためになり、沿岸住民へ「楽しくおいしい海」を提供することを可能にするのです」(よみがえれ東京湾 一柳洋)

 では、日本の漁業再生のために、農林水産省はどのような漁業対策、漁業政策を行ってきたのだろうか? 漁業政策は失敗だったのではないだろうか? 他の水産国ではどのような政策をとっているのだろうか?       


日本漁業の驚愕的な凋落の現状(その2)
漁業政策の失敗と再生のための新たな漁業規制
      によって、さらに大きな問題点を模索して行く。…続く

平成22年11月14日

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