このサイトは主に長山一夫の著書、仕入覚書を掲載するものです。
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氷見産寒ブリ、産地偽装事件の顛末
商標登録されたブランド魚は、全て旨いのか?


築地市場での偽装の発覚と氷見漁協への“要望書”の送付

“平成22年12月13日から15日”にかけ、築地市場に入荷した氷見産寒ブリ824尾の一部に産地偽装の疑いが生じた。脂の乗りが゙悪く、痩せて身の色が赤いものが混じっていたのだ。この時期の氷見の寒ブリは、太って脂の乗りが良いのが特徴で、価格も他の産地のものよりも3割から5割高めとなる超高級品なのだ。
 以前から、氷見漁協から連絡のある水揚げ量よりも、築地への入荷量のほうが多いという現象が発生しており、今回のあからさまな疑念によって、築地では初めての、氷見漁協への要望書の送付となった。氷見漁協のブリは、競った仲買人が専用の青い発泡スチロールの箱に入れて各地の市場に出荷しているのだが、この箱は仲買人が独自に製作し管理することが可能で、他の産地のブリを混入して出荷することは容易なことであったと言われる。

 この要望書は、築地市場の卸売業者でつくる東京都水産物卸売業者協会が、氷見産ブリのブランド魚としての信頼性を保つための対策を採るように“要望”したもので、処罰や損害賠償を対象にしたものではなかった。

氷見漁協の対応
 指摘を受けた漁協側は、出荷した仲買業者から聴き取り調査をしたのだが、否定も肯定もしない状態で、漁協としての独自の調査には限界があるとして、疑惑の会社名も公表せずに、漁港の管理者である富山県に調査を一任することになった。

富山県の調査…偽装発覚と是正改善指示
 富山県の調査の結果、このブリは、氷見市北大町の水産中卸業者である「浅吉」が出荷したもので、福井県産のブリを氷見産と偽って販売したことが判り、県は日本農林規格(JAS)法に基づき、産地偽造をし販売したとして、“1月25日”付けで、産地偽装の是正改善を指示した

 富山県によると、浅吉は12月中旬、福井県敦賀市の美浜漁協の市場で、敦賀沖の大型巻き網漁で漁獲されたブリ900本以上をセリ権のある美浜の中卸業者から買い付け、同時期に氷見魚市場から379本仕入れた。同社はその後、築地市場に氷見産として824本出荷した。仮に379本全てを出荷したとしても、残りの445本は福井県産だったことになる。又この時期、他の7県の業者にも348本出荷し、この内140本を「石川県産」と偽って表示していた。だから敦賀産のブリを585本も産地偽装して販売したことになる。当然、敦賀産ものよりも高値で取引され、不当な利益を得たことになる。

浅吉の弁明
 浅吉の森谷貞夫代表取締役は「だまして儲けようとしたわけではない。認識が誤っていた。いい魚だったら、氷見沖でなくても氷見産として出していいと思っていた。一定の数量があってのブランド。獲る場所や定義をきめて範囲を狭くすると、不漁の時に本数が集まらない。曖昧にしてきたのは、そうならないための知恵だ」などと報道陣に全く不当な釈明をした。

是正改善指示に対する漁協の対応
 漁協は、県の浅吉に対する改善指示の提示と同時に、1ヵ月後の“2月26日”からの売買取引停止の仮処分を決定した。

「浅吉」の対応 浅吉は改善報告書を直ちに県に提出。
 改善指示書を受理した浅吉は、“2月8日”に偽装防止策をまとめた改善報告書を直ちに県に提出した。県によると、改善報告者には、(1)責任者を置いて品質表示の責任の所在を明確にする。(2)社内でのチェック体制を強化する。(3)コンプライアンス(法令順守)を徹底する。などが盛り込まれていると言う

漁協の対応
 しかし、浅吉からのすばやい改善報告書の県への提出を受けて、これまで通りの既定路線であったと言う売買取引停止処分の解除を決定、浅吉は、“2月10日”から氷見魚市場でブリを含めた全ての競りに参加出来るようになった。

JAS法による処罰
 今後、浅吉が報告書通りに改善していないと判断された場合、県はJAS法に基づいて再度業者名を公表し、指示に従うように命令する。それでも従わない場合は、県知事が警察に告発し、個人は1年以下の懲役または100万円以下の罰金、法人は1億円以下の罰金を受ける可能性があるという。

産地偽装事件に対する漁協、県の緩慢な処置に対する批判
 かくして漁協に対する虚偽の申告と県による偽装判明の調査結果にもかかわらず、浅吉には、不名誉な会社名の公表だけで、売買取引停止も含めて、実質的な罰則が全く科せられない結果となった。
 浅吉は、過去にも度々この産地偽装の不正を繰り返していたことが推量されるが、その事実は公表されなかった。福井県産のブリが、石川県、富山県産のブリとして出荷されるのは、浅吉と他の業者も含めて、かなり慣習的に行われてきたと以前から噂されていた。
 しかし、浅吉の偽装による不当な利益の獲得に対する実質的な処罰、騙されて不当に高値で買わされた築地市場、飲食店と消費者への謝罪、損害賠償は何処へ消えてしまったのか。
 漁協、県のこの事件に対する鷹揚さから類推すると、噂どおりにこのような取引が氷見漁協において過去に多々発生していたために、臭いものに蓋をしたのではないかという疑念さえ生じさせた。
 今回の漁協、県の処置の不当性には、許しがたいものがあり、再発を禁じる厳しい処罰はどこへ消えてしまったのだろうか。
 浅吉は後に築地の荷受会社に謝罪に来たという。謝罪ですむなら警察は要らないではないか。

富山県警の捜査開始
 しかし、1月27日、富山県警(生活安全課)が不正競争防止違反(虚偽表示)容疑で、ついに浅吉の事務所など数箇所を家宅捜査した。
「まさか警察が動き出すとは…」と、県内の漁業関係者にあらためて衝撃が広がったとい言われる。衝撃が走るほどに築地市場も含めての全漁業関係者の認識が甘かったのだ。卑劣な確信犯の犯罪に対する法治国家である日本の警察の捜査開始は当然の成り行きであった。
 不正競争防止違反(虚偽表示)に対する罰則規定では、禁止行為を行ったものは、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金。またはこれを併科、法人罰として3億円以下の罰金となる。   
 しかし4月8日現在、捜査結果はまだ公表されてはいない。

産地偽装の下地となった今期の状況と、事件の自然消滅
(1)近年の氷見寒ブリ漁の不漁は、海水温の上昇と大型巻き網漁業による湾外での乱獲がおおきな原因に成っていると言われる。富山湾のブリは他産地のものよりも3割から5割も値が高く、大不漁年の氷見の寒ブリはキロ単価1万円と、1尾が10kgとして10万円もの高値を付けることがあるほどだ。

(2)昨年11月下旬から12月中旬頃までは、まだ氷見ブリの漁獲量は例年のように少なく、値も高値であった。そのため大量に獲れて値の安い敦賀沖のブリを、不埒にも産地偽装する誘惑の下地が十分に発生していた。しかし下旬から始まった奇跡的な大豊漁の中で、氷見ブリの価格の下落もあり、築地市場での氷見の偽装問題は、従来から多々発生してきた産地偽装に慣れきっている環境の中で、今度もまた当然発生し得るいつもの事として、大きなリアクションもなしに話題としても消滅していった。
 築地市場では、昔から海幸橋を渡ったら、「嘘八百なんでもあり」と言う風潮がある。「騙す方より騙される方が悪い。騙されるのは未熟なのだからで、勉強し直して来い」というもので、プロの世界の厳しさを伝えたものだが、このような風潮も偽装問題での対応の甘さの一因となっているようだ。

築地市場と東京のすし屋の一般的な反応
 全ての魚は工業品のような規格品ではないために、品質の選別には、プロの熟練の目利き能力を求められることになる。築地市場の場合には、産地からの魚を受け、競りに回す「荷受け」と、競りによって魚を仕入れ、飲食店に卸してゆく「仲買人」が、切磋琢磨した熟練のプロとしての能力を問われることになる。
 しかし近年では、このポジションにいるベテラン達の能力の劣化が多々見られ始めている。同時に築地市場が日本全国の魚の流通を指導、牽引してゆく力も弱くなってきている。

 産地の出荷者による重量の誤魔化し、欠陥魚の大胆な混入に対する叱責と処罰、油汚染などの欠陥魚の自主回収と産地への返却等、築地市場が本来発揮すべき強権的指導能力をも無くしてしまっている。これは、場外流通の全盛と、電話一本で、日本全国何処へでも相場の高いところへ出荷できるようになった産地の生産者の問題と絡んでくる。
 少しでも多く築地へ荷を引くための生産者へのへつらいの常態化が、築地市場のプロとしての、意地と誇りと名誉をかけての戦いの気概を薄くしてしまったのだ。

 今回の事件はこのような状況の中で、起こるべくして起こった象徴的な出来事であった。
 築地の荷受けは産地漁協へ改善の要望書を提出しただけだと言う。すぐに抗議のために、どこかの荷受けが、産地へすっ飛んでいったのだろうか?
 後に「浅吉」が築地の荷受のところに謝罪に来たと言う。その事実がなぜ仲買へ、そしてその得意先へ伝達されて行かなかったのか。
 仲買人も「理由あり承知」の態度で、ただただ静観しているだけ。こんな偽装ブリを受けた荷受けに厳重な抗議をしたと言う話は全く聞こえて来なかった。飲食店、魚屋、スーパーへ不当な高値で売ってしまった仲買人の責任と悔恨、怒りは何処へ行ってしまったのだ。そして騙されて仕入れた飲食店、スーパー、魚屋などの怒りはどこへ消えてしまったのだろうか。
 最近の築地は、なんと緩く、無責任な市場になってしまったのだろう。

日本海のブリの生態と今期の奇跡的な水揚げ高の原因
日本海のブリの生態

 ブリは季節によって南北に回遊してゆく回遊魚で、春先に五島列島沖で産卵し、5月から6月頃に日本海を北上して行く。夏から秋にかけて水温の低い北海道沖で過ごし、海水温が15から16℃程度に低下すると水深50m付近で南下を始め、たっぷりと脂を乗せてゆく。この脂のたっぷりと乗ったブリが、富山湾に入り、氷見沖の定置網で獲れたものを氷見の寒ぶりと呼ぶ。
 1998年以来12年間、氷見の寒ブリは、不漁年が続いていた。海水温の常態的な上昇によって、本来の氷見沖のブリの最適水温が、逗留先の北海道で早くから発生し、しかも長く継続するために南下を始めず、その北海道で大量に漁獲されるようになった。さらに南下したブリも、対馬、境港、能登などの超大型巻き網船によって、湾外で大乱獲されてしまうことが、富山湾内の定置網漁の大不漁の原因となっていると言われ続けてきた。
 しかし今季は、12月下旬から1月にかけて、「神様仏様」の過去最大の奇跡的な大豊漁が発生した。

12月中旬から翌1月にかけての驚異的なブリの水揚げ高
 昨シーズンは、不漁といわれ続けてきた近年の数字の、さらに半分の漁獲量しかなかったが、今期の1月から2月の総本数は計13万774本で、統計を始めた1998年以降の12年で最多漁獲高であった。昨年の4274本との比較では30倍、これまでの最高であった2003年の6万7268本の倍増という驚異的な漁獲量となった。
 今期は1月に入って大急増し、1月の総水揚げ量が、今期氷見漁協の総漁獲量の全体の85%を占め、11万1493本となった。七尾漁協の定置網で獲れたブリの55%が氷見漁協に水揚げされ、氷見産ブリとして出荷される総数の70%ほどを占めていたと言われる。
 氷見市北部から石川県七尾市の定置網での水揚げが目立って多く、富山湾内湾の新湊、魚津、滑川漁協は例年通りの不漁だったようだ。これは富山湾内でのブリの回遊方向の初期段階で、好漁場を持つ七尾、氷見漁協が大量に漁獲してしまうからであろう。

今期の奇跡的大豊漁の原因…水温の低下とブリ起しの多々なる発生。
 今期の大豊漁は、ブリ漁の最盛期に日本海の海水温が、ブリが好む最適温に下がったことが大きな原因になっているといわれる。
 今期の大寒気の到来と共に日本海の水温は順調に下がり、南下中のブリの大群が沖合いから沿岸近くに寄ってきていた。この大群の回遊が、南下途中で能登半島に阻まれることによって富山湾にも大量に入り込み、さらにブリ起こしと呼ばれる荒天が度々生じたことが、荒れた沖合いから比較的穏やかな沿岸となる富山湾に、さらに大量に入って来たことが大豊漁の大きな原因となったと考えられる。

曖昧な氷見産寒ブリの定義
 築地市場では、ブリは10kg以上を言い、12月から1月上旬に富山湾内湾の氷見、新湊漁協等で水揚げされるブリを富山湾の寒ブリとし、その中でも氷見漁協のブリは特に『氷見の寒ブリ』として別格扱いにされてきた。
 しかし、氷見漁協はこれまで、積極的に氷見産寒ブリの定義づけをしてこなかった。
「寒ブリ」と呼ぶ時期も、漁協幹部によると「寒の入りをした後、12月から翌年の1月ぐらいだが、明確な期間はない。重さについては10kg超でも、太ったものも痩せたものもある。何kg以上とは言えない」(漁協幹部)。
 森本太郎組合長は「天然ものだけに、線引きは難しい。寒ブリの取引は、業者のマナーで保たれてきたのが実情だ」と語る。

氷見漁協・佐渡ヶ島の両津漁協の寒ブリと、日本海の他の産地のブリとの違い
 氷見漁協と佐渡ヶ島の内海府海岸沿いの定置網で漁獲され、両津漁協から出荷されるこの両海域の寒ブリ漁は、例年12月上旬頃に始まり、1月上旬頃には終漁となることが多い。10kgから15kgに及ぶ大物で、たっぷりと脂が乗った身肉の独自の旨さは当然のこととして、他の産地との決定的な違いは、津軽海峡でスルメイカを追いかけている最盛期のホンマグロの旨さに共通する、鉄分を含む鮮烈な血の香りを放っているところにある。この鮮烈な香りと、濃厚な脂の旨さとの融合の旨さこそが、氷見と両津漁協の寒ブリの高い評価を決定するものとなる。
 しかし、氷見漁協の寒ブリの旨さはブランド的に言われ続けてきたのだが、両津漁協の旨さを同等に語る人は少ない。氷見の寒ブリは、多々旨さのはずれがあるのだが、両津のものにははずれが少ない。今年は氷見の大豊漁の入荷によって、姿を消してしまったようだ。しかし、この両寒ブリの旨さをつくる共通条件、生態系的環境とはナンなのだろうか。非常に興味のある事柄なのだが、情報が伝わってこない。

◎第三春美鮨の寒ブリの選別方法。
 魚介類の旨さは、旨さのあらゆる条件を満たしているものでも、食べてみないと最後の旨さの真髄を知ることが出来ないものは多い。カツオ、ウニ、マグロはその典型的な魚だが、この中に氷見と佐渡ヶ島産の寒ブリも入ることになる。
 年間で、たったの1ヶ月ほど、少ない年には数回しか入荷してこない寒ブリは、極めて待ちどうしく、最高品が手に入った時の喜びと緊張感には胸躍るものがある。ブリは大きい魚なので、仕入れの時、二枚、三枚、五枚に卸したものを買うことになる。その時、身肉を少し食し、脂の旨みと鮮烈な香りの旨さを持っているかどうかを選別の基準とする。無ければ買わないでパスすることになる。

 今期の氷見産は11月下旬頃に入荷が始まったのだが、この時期のものはまだ脂も薄めで、香りも無く、選別の対象外であった。12月に入り数がまとまって氷見から入荷するようになったのだが、13日頃まで相変わらず最高品にぶつからず、使うことが出来なかった。
 当店の今期初の寒ブリの仕入れは、12月13日の氷見の寒ブリであった。12.4kg。サイズ的にも見事な理想的な大きさであった。脂の乗り良し、香り良し、鮮烈な血の香りが脂の旨みと共鳴するように口中に広がってくるのだった。

 寒ぶりの仕入れは、強い脂身の旨さを採るか、あえて鮮烈な香りの旨さをを選ぶかで、仕入れの部位が違ってくる。当店では氷見の寒ぶりの香りの旨さを最優先するために、背の部位を指名することになる。12月13日は奇しくも産地偽装の敦賀沖で獲れたブリが築地に入荷した日であったが、選別の中で、当店のブリは間違いなく栄光の氷見産の寒ブリであった。

 しかし、近年での当店の仕入れの選別の中では、この香りの旨さの有無は、どちらかと言うと、佐渡のものよりも、氷見産のブリに裏切られることが多かった。だから、両産地から最高品に見える寒ブリが入荷した時には、佐渡産の味見をし、選択することが多い。氷見の定置網では、大漁時に、出荷調整するために小さな落とし網に活け込み、数日以上経ってから出荷することが多々あるという。この落とし網の活け込みは鮮烈な香りの喪失につながっているのではないだろうか。

「沖締め」の技法に対する反論
 また氷見漁協が秘伝とする粉砕された氷で、キンキンに冷やした海水の生簀に入れて瞬間即殺する『沖締め』の技法は、寒ブリのぷりぷりの食感と鮮度の維持を長くさせ、旨みの発生時間を遅らせ、かつ長く継続させるための優れたテクニックである。
 しかし翌日には築地に入荷し、その日の夜には使い始めるブリの旨さの捉え方として、たっぷりとした脂身の旨みと鮮烈な香りの旨さを味わうためには不要な技法だと思う。ブリを含めてアジ科の魚であるカンパチ、ヒラマサ、シマアジのイノシン酸の旨さを味わうためには、敢えて産地で瞬間即殺する必要の無い魚なのだから。またあまりにも香りが少ない寒ブリの入荷が続いた時に漁協に問い合わせた結果、時化で獲れず、漁協で競りが全く無い時にも出荷されていることも多々あった。この辺に氷見産寒ブリの産地偽装の疑いの余地は以前から多々あったことになる。

 しかし、今回の事件の中で、産地の漁協関係者が氷見の寒ブリの旨さを言う時に、「沖締め」による身肉がぷりぷりとした「キトキトの鮮度」と、「濃厚な脂の乗りの旨さ」だけを取り上げ、この香りの旨さを自慢する人は皆無であった。この旨さこそが氷見産寒ブリの最高の売りであり、商標登録のための旨さの最大のシンボルにすれば良いのに…

「ひみ寒ブリ」商標登録へ…産地偽装再発の防止のために
 偽装の発覚以来、築地市場を始め、各地の市場は氷見漁協に産地証明書の添付を要求するようになった。それに呼応して1月13日、氷見漁協や氷見市、県などでつくられる「氷見魚ブランド対策協議会」の初会合で、ブランド名を「ひみ寒ブリ」とすることに決められた。

 地域ブランドの商標登録を目指す漁協では、「漁獲海域や時期、重量などの定義や、誰が「ひみ寒ブリ」と認定するのかなどを今年度末までに決めて特許庁に申請し、今秋の漁期から実施を目指す」ことになった。
「商標の実効性を確保する証明用のタグやブリを入れる発泡スチロールの青い箱の統一についてはコストや運用面で問題もあり、仲買業者との調整もあり、今後の課題とする。」(今回の事件の際は、この青箱製造業者の総製造販売数と使用出荷先が不明だったとするが、そんなことは簡単に調べられることで、不都合な事情のために調査しなかったのではないだろうか。)
「1日に、数千本単位の豊漁が続く場合、タグやシールの取り付けが物理的に可能か、タグの使いまわしや偽造を、どのように防ぐのか」などの多くの問題点があるという。(これも漁協に産地偽装にたいする厳しさと防止の熱意が足りないからの台詞に聞こえる。)

ブランド化された魚の功罪
 平成のバブルが弾けた頃から、各地の漁協で自慢の魚のブランド化の動きが活発となっていった。漁獲高の減少にもかかわらず、魚のキロ単価の低迷による平均所得の下落、組合員の老齢化と後継者難現象からの脱却をはかるために、ブランド化による魚の高キロ単価化の実現をめざして、各漁協がその存続をかけて取り組んでいったのだった。
 その中でも関サバ・関アジの圧倒的な成功には目を見張るものがあったが、そのような成功例はまだまだ少ないようだ。

(1)大分県佐賀関漁協の「関サバ、関アジ」
 平成8年、商標登録の先鞭を付けた佐賀関漁協の「関サバ」「関アジ」は、身質の旨さ、漁獲海域での生態系・漁法・浜〆のテクニック・輸送による最高の鮮度の維持等の全てを含めての商品価値をアピールするものであった。
 しかし、2月から3月にかけて一番漁獲量が多くなり、旨さも最高の旬の時期に入る「寒サバ」としての、優れた旨さの特徴を登録したものではなかった。最高の人気ブランドとなったゆえの超高値は、1年中の漁獲による乱獲と環境の変化の中で、魚体の小体化と漁獲量の激減、最高品質魚の激減をもたらし、関サバの相対的な評判も下落させていった。
 関サバの最高級品を要求する当店では、5年前頃より、もう使用しなくなってしまっている。また高価格ゆえの産地偽造の発生も多々発生していたはずだが、取り締まりの状況は全く聞こえてこなかった。

(2)神奈川県松輪漁協の「松輪のサバ」
 平成18年、地域団体商標登録をした。
 東京湾々口、浦賀水道に面する間口漁協の一本釣のマサバで、8月下旬頃の旬入りから、11月頃までを漁期としている。典型的な秋サバで、流れの速い水道に生息するサバ特有の身質の締まりと、決してベトベトには乗らない、程良く豊満に乗った脂身の旨さが絶品と評価され、築地市場に入荷する最高のサバとされてきた。
 商標登録による品質の保証と、サイズと脂の乗りを考慮した箱毎の選別の仕分け方と、鮮度の保持が的確で、信頼の置けるものとなっている。本来は松輪根近辺のサバを漁獲していたのだが、漁獲高を増やすために、漁獲海域を広げさせるようになり、内湾の横須賀近辺まで出漁すると言われる。
 たまに品質のバラつきと、油臭のあるものが混じるという弊害が指摘されている。また、オキアミのコマセを大量に撒いての釣漁のため、身肉にコマセ臭さがあるとか、コマセが海の汚染の原因になっている等の批判も出てきている。

その他の商標登録された魚
(3)旬(トキ)アジ…長崎県、五島・対馬のアジ
(4)ごんあじ…長崎県五島灘の背付きのアジ

商標登録されたブランド魚は全て旨いのか?
 同時期に、同地域で獲れる同サイズのブランド魚でも、常にそれぞれにピンからキリまでの固体差があるものであり、ブランド魚の全てが旨いわけではない。だから最高品質のブランド魚を仕入れるには、多くの個体の中から、さらなる厳しい選別が必要とされる。
 氷見産のブリも全てが旨いわけではない。12月から1月の旬真っ盛りの他の日本海のブリも多少の差はあっても、皆たっぷりとした脂を乗せているものなのだ。しかし、氷見産と佐渡産のブリの凄さは、津軽海峡のホンマグロが、その最盛期に髣髴させてくる、鉄分っぽさを含んだ芳醇な血の香りを、たっぷりと乗った脂の中に湛えていることにある。
この香りの旨さは全ての氷見・佐渡産のブリに有るのではなく、そのベストを選別するためには、身肉を食してみることが最も重要な条件となる。

 独自の旨さのありようを限定してのブランド指定ではなく、十把一絡げの全ての魚が旨いとするブランド指定では、これからはもう通用しないのではないか。そのためにはブランド指定の基準をより明確で厳格なものにし、産地での選別の明快なランク付けの表示が要求されることになる。

そして4月15日、
 まだ富山県警生活安全課による捜査結果は公表されてはいない。
 偽造による不当な利益の所在も含めての税務調査も有りうる故に、過去5年にまで遡っての捜査が続いているのだろうか。

                          平成23年4月15日

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